5/04/2009

第6話 空間認知能力のもうひとつの仮説

前回の仮説は,空間認知力が,不足した情報を補うというものでした。
したがって,空間認知能力の高い学習者は,ワーキングメモリー内において,参照結合(言語情報の表象と,視覚イメージ情報の表象の統合)を行う際に不足した情報(視覚イメージ情報の表象)を補い構築できるので,近接効果は,空間認知力の低い学習者に対して大きな効果をもたらすはずである。となりました。

その仮説とは違う仮説として,空間認知力は,優れた教材提示の効果をさらによくする があります。 the ability-as-enhancer hypothesis です。

この場合,先ほどとは違う結論を得ることになります。

空間認知力が,効果を向上させるものとして,考えると,
言語情報と視覚イメージ情報が同時に提示されないとき,空間認知力が高い学習者も,低い学習者もいずれも参照結合を構築できないと結論付けられます。

しかしながら,同時に提示された場合,
効果を向上させるとする仮説により,空間認知力の低い学習者は,高い学習者よりも視覚イメージ情報の表象の構築において,より多くの「認知資源:外からの情報を受け取り,それが何であるかを判断したり解釈したりする過程において(認知)必要とするもの」を充てなければならない。したがって,空間認知力の低い学習者は,参照結合の構築にほとんど資源を充てることできない。となります。

空間認知力の低い学習者は,視覚イメージの表象を構築するときに,提示されたアニメーションなどを,何度も繰り返さなければならないでしょう。したがって,そのとき,認知資源を他のタスクに使うことができないわけです。

逆に,空間認知力の高い学習者は,多くの認知資源を参照結合に使うことができるので,最初の仮説の
空間認知力は,不足した情報を補うからの結論と違い,同時に提示された教材から,より多く効果を得ることができると考えられます。

もし,空間認知力が視覚イメージと言語を組み合わせた授業をさらに良くするとするならば,
空間認知力の低い学習者ではなく,空間認知力の高い学習者が,より大きな近接効果を得ると言えるでしょう。

この研究の目標を改めて言い直すと,
the ability-as-compensator と the ability-as-enhanser に関する,実証的なデータを提示することです。

これら2つの予測を,
言葉と視覚情報を組み込んだ提示,バラバラの提示,提示なし を比較することによって,2つの実験を行いました。対象となる学習者は,「学習経験の低い生徒で空間認知力の高い生徒」,「学習経験の低い生徒で空間認知力の低い生徒」です。

この実験は,
「近接効果は,空間認知力の高い学習者ではなく,空間認知力の低い学習者に大きな効果があるのかどうか」または「近接効果は,空間認知力の低い学習効果ではなく,空間認知力の高い学習者に効果があるのかどうか」に注目して行われました。


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この論文のレビューです
Mayer,R.E., Sims, V.K.(1994)
For Whom is a picture worth a thousand words?
Extensions of a dual-coding theory of multimedia learning.
Journal of Educational Psychology, 86, 389-401
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